エルムだより
2018.4.2

平成29年度学位記授与式・校友会エルム石山会長祝辞

平成29年度学位授与式

平成30年3月22日

北海道大学校友会エルム会長

石山 喬

 

 

皆さんご卒業おめでとうございます。

ただ今ご紹介いただきました、昭和42年卒業の石山でございます。

今年も若さで光輝いている、2585名の皆さんを同窓生の仲間として迎え入れることに大変喜びを感じています。

 

皆さんは卒業後殆どが進学される方達や就職される方達で、先が決まっていないという人はあまりいないとおもいますが、世界の情勢は非常に変化が速く、今後はさらに混沌とした状況が続き、誰もこのような世界になっていくよと言える安定した形にはならないだろうと思われます。

 

先日のダボス会議である人が、「今ほど変化の速い時代は過去にはなかった。だが、今後今ほど変化が遅い時代も二度と来ないだろう」と言いました。全くその通りだと思います。以前1994年に初めて中国の深圳に行きました時、家の窓から電話線を引き出して公衆電話を開設している人や、台秤を歩道に置いて体重を計る商売をやっている人がいてびっくりしましたが、最近は露店の饅頭屋でも金額はスマホ決済になってきています。

 

ピョンチャンのオリンピック開会式、閉会式でも見たこともないようなハイテクらしきものが多く使われていました。

 

世界の経済状態は適温経済化の世界同時好況がつづいています。熱すぎず冷たすぎず、丁度よい温度。これは先進国の需要不足が解消され、物価も2%UPし、失業率は歴史的低水準です。これに対して日本は上場企業の7割が増収増益で有効求人倍率は1.5倍と完全雇用状態となり、17年度の実質GDP伸び率はプラス1.7%、消費者物価上昇率指数はプラス2.8と安定した好ましい状態が継続しています。

 

これらによって今は皆さん新卒者にとっては大変な売り手市場が出現しています。しかし、2年後に修士課程を卒業された時にはどうなっているかわかりません。まだそれほど悪くはなっていないだろうと想像はしていますが、変化の要因は色々出てきています。

 

今の安定した世界の経済状況の中で、先ごろの米国で賃金の上昇スピードが速すぎるということで、これによる金利上昇を懸念した株価の暴落が発生し世界に伝播しました。また、ビットコインのハッキングによる多額の流出が起こっています。これらは金余りの中で実態の無い世界において金儲けに猛進している人達の仕業であります。

 

さらに、トランプ大統領のアメリカファーストで今度は鉄鋼、アルミニウムに輸入関税が掛けられようとしています。全くあわただしい状況が続いていますが、私達はこのような事に振り回されることなく、実態のある世界を大切にして、どっしりと構え、ぶれることなく地道に活動していけば良いと考えています。

 

最近世界の中で日本の経済的地位が低くなっていると良く言われていますが、これは日本の経済活動が停滞していたわけではないと思います。日本に於いて今までのビジネスモデルは限界に近いまで発展してきました。日本の中では色々なマーケットが頭打ちになり、多くの企業はマーケットを求めて海外展開をしてきました。そこで多くの人を雇用し、製品をその国や他国に輸出し、それらの国々が発展するのを助けてきました。そのような変化によって周辺国の経済は発展し、人々は裕福になり、格差の大きな国ではアッパークラスの賃金が日本を上回るようになってきました。これはアメリカでも同様でコモディティー商品は国内では生産されなくなりされなくなり、トランプさんのアメリカファーストが支持された原因となったのは皆さんもご存知の通りです。企業は相対的に賃金が安くなった自国に回帰し設備投資を行う現象が起きつつあります。

 

この中で今一つ日本の特殊性があります。日本のマーケットは全てが小さく製造業にとって生産能力を拡大していく余地がありません。「大量生産、大量販売、大量消費」は国内では望むべくもありません。そのため競争が激烈で顧客の関心を引くためにどんどんマニアックな品質競争に入り込んでしまいます。しかし後進国のマーケットではもっと普通の品質で品数も少なく安く作れる商品が大量に普及していきます。EMS企業で有名なフォックスコンは中国で50万人程の人を雇い、作業員は12時間労働で週6日勤務です。このように多くの人を厳しく統制して単純労働を行わせる経営は家族的な絆を大切にする日本人には難しいものがあります。

 

また、通常日本の工業製品は品質基準としてJISを使っていますが、私たちはこの基準の中にさらに狭い基準の幅を独自にもって仕事を行っています。JISの基準の幅ではばらつきが大きすぎて、日本の顧客では満足してもらえないからです。良い例ですが、日本の自動車が故障して修理に持ち込んだという話は殆ど聞いたことがありません。中国でも中古の価格は日本車の方が欧米ブランドよりも高いようです。アラブのサファリツアーでも砂漠の中を走りまわっている車は、全てトヨタのランドクルーザーでした。

 

これはある会社の注射針の話ですが、皆さんは痛くない注射針をご存じですね。この針を作っている会社の会長さんに話を聞いたことがあります。開発が成功して全自動の機械をアメリカとオーストラリアに設置しました。機械は使っているうちに精度が落ちてきますので、調整が必要となります。この時アメリカでは製品の精度が基準値の振れ幅MAXまではOKとし調整しますが、オーストラリアでは基準から外れてしまうことが多くあるようです。日本では自分達で基準値の内側にさらに狭い基準を設定してその範囲に入るように調整していました。最終的にはオーストラリアでは痛くない針を安定して作れないので、機械は引き揚げてしまったとの事でした。オーストラリアの人達は少しくらい痛くても当たり前と思うのかもしれません。この針の開発は糖尿病の子供たちを毎日のインシュリン注射の痛さから救ってやりたくて開発したもので、最初は1本1万円でしたが、100円まで下げることができ、最終的には10円台を目指しているという話でした。海外に於ける日本人と日本製品の評価は品質、機能、納期において他国の製造業を凌駕しております。ここが日本の製造業の勝てるポイントです。今後さらに世の中は変化していき、新しい技術、新しい製品、新しいビジネスモデルが生まれてきます。その中で生き残り勝ち残って行けるのは、この日本人の持つ特性、このジャパニーズテーストが最大の強みと考えています。

 

昨年来日本の製造業がデーター改ざん問題で糾弾される事態がかなり起きましたが、先ほど述べた厳しい品質基準と製品納期の板挟みにあって行われてしまった事だろうと思います。しかし製品としては殆ど問題にならない範囲と思いますが、ただしそのようなことが行われていることが社内でオープンになり早く是正されるような正しい組織風土を企業は真摯に構築しておくことが大切です。これらが明らかになるのは殆どが内部告発です。ごまかしに耐え切れなくなった人や会社の扱いに不満を持つ人が声を上げた結果です。しかし永年不正が積み重なった後に明らかにされると、大企業でも存続の危機にさらされ多くの従業員も大変困難な状況に陥ってしまいます。皆さんも卒業され働くようになると、報告データーや検査データーの改ざんを迫られる場面に出くわすことも多分、いや必ずあると思います。今はほとんどの企業でホットラインを設けてこのような場合には内部通報が匿名で行える機能が設けられています。このような不正を早く明らかにし、正していく事が正に企業を守ることです。これは今後リーダーとなっていく皆さんがしっかり心にとどめておかなければならない事です。

 

私が会社のトップとして手帳に書き留めて、常に思いを新たにしていたことは「企業のコンプライアンスはトップの姿勢が一番大切であり、その正しいことを行うという精神を企業の末端まで行き渡らせなければならない。会社の品格は社員個々の品格によって形成される。」でした。

 

このような話の中に、皆さんが学ばれてきた北大の4つの理念の大切さが浮かんでくると思います。フロンティア精神、国際性の涵養、全人教育、実学の重視この中に私達と周囲の人達が豊かな人生を過ごしていくための基本となる理念が込められていると思います。皆さんも今後色々悩んだりしたり、迷った時にはこの理念から考え方を組み立てられることをお勧めします。

 

最後に校友会エルムの宣伝です。全学同窓会を校友会エルムと変えて、在学生、職員、保護者まで加入できる組織として1昨年6月に発足しました。昨年からは新入学生も会員になるよう勧誘してきました。エルムの組織は、日本だけでなく海外にもその輪を広げております。新渡戸カレッジフェローの推薦や、海外インターンシップの受け入れ先の開拓、留学奨学金支給活動なども行っています。皆さんも卒業されるとエルムの基礎同窓会である各学部の同窓会や東京、関西といった地区の同窓会に入会されることと思います。そして校友会エルムにも入会していただくと、全ての会員と繋がる事ができます。同窓生は政界、財界、官界、学会で広く活躍しています。普段は面識のないこの方達とお目にかかるのは難しいのですが、エルムを通じれば、学部も地域も関係なく非常に気楽に会っていただく事ができます。ただ、都ぞ弥生を2番までは歌える事が必要ですね。

 

皆さんが世界の大きな進歩のうねりの中で、他国から尊敬されるような日本をリードしていってくれる人達として成長されることを心から願っております。

 

これをもちまして私の祝辞とさせていただきます。

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